人手不足や高齢化が進むなか、農薬散布をドローンに切り替える農家さんが増えています。ただ、いざ調べ始めると「本体はいくらで、結局ぜんぶでいくらかかるのか」がなかなか見えてきません。
この記事では、主な機種の価格に加えて、バッテリーや保険、資格取得まで含めた導入の総額を、できるだけ具体的な数字でまとめました。
※掲載価格は2026年10月時点のメーカー希望小売価格(税込)です。実際の販売価格は販売店にご確認ください。
目次
1.農業用ドローンの価格帯と種類
農業用ドローンの本体価格は、おおむね100万円〜300万円の間です。価格の差は、主に積載量、散布能力、飛行時間、センシング機能の違いから生まれます。
1-1.価格帯による分類
初心者向け(100万円前後)
小規模な農家さんや、はじめてドローンを入れる方に向いた機種で、DJI AGRAS T10などが該当します。積載量は5〜10L程度、飛行時間は約10分前後で、1haあたりの作業効率を重視した設計です。
中級者向け(150万円〜200万円)
中規模の農家さんや、散布の請負にも使えるDJI AGRAS T25やT25Pなどの機種です。20Lの液剤を積むことができ、T25なら1回のフライトで約2haをカバーできます。本体価格はT25(COMBO)が1,595,550円、T25Pが1,760,000円(いずれも税込)です。予備バッテリーや発電機などを含めると、総額は300万円前後になります。
プロ向け(200万円〜300万円以上)
大規模農家や、農業支援サービスを手がける事業者向けの機種です。DJI AGRAS T50は1,965,700円、T70Pは2,090,000円(いずれも税込)で、散布効率と安定性に優れています。オプション装備まで含めると300万円を超えることもあります。
1-2.最新機種の価格動向(2026年)
2025年11月、DJIの新型機「AGRAS T70P」と「AGRAS T25P」が国内で発売されました。T70Pは最大70リットルの液剤を積める大型機、T25Pは折りたたみ式で1人でも扱いやすい小型機です。T50は飛行の安定性が高く、最大40リットルの液剤を積めるモデルです。なお、以前の主力機だったT30は、現在は旧モデルになっています。
2.主要メーカー・機種の特徴と価格比較

2-1.DJI AGRASシリーズ比較表
| 機種名 | 価格(税込) | 積載量 | 特徴 |
| T10 | 1,199,000円 | 液剤8L/粒剤10kg | コンパクトで扱いやすい入門機 |
| T25 | 1,595,550円(COMBO) | 液剤20L/粒剤20kg | 中小規模向けの高コスパモデル |
| T25P | 1,760,000円 | 液剤20L/粒剤20kg | 2025年11月発売の折りたたみ式小型機 |
| T50 | 1,965,700円 | 液剤40L/粒剤50kg | 大規模向けモデル |
| T70P | 2,090,000円 | 液剤70L/粒剤70kg | 2025年11月発売の大型モデル |
出典:T10・T25・T25P・T70Pはヤンマー公表のメーカー希望小売価格・仕様(2026年3月現在)、T50は農林水産省「農業用ドローンカタログ」(令和7年1月28日時点)
DJI AGRAS T30は業界の標準機として広く普及しましたが、現在は旧モデルです。T50は2024年5月に国内で発売されたモデルで、従来機より性能が大きく上がり、特に大規模農業や果樹園での作業に向いています。さらに広い面積をこなしたい場合は、2025年11月発売のT70Pも候補になります。
2-2.国産ドローンメーカーの特徴
国産メーカーの強みは、国内のサポート体制が整っていることと、日本の農業環境に合わせたカスタマイズがしやすいことです。マゼックス社の「飛助」シリーズでは、小型の飛助miniが58万円〜(税抜、バッテリー・充電器は別売)と手の届きやすい価格から導入でき、アフターサポートの手厚さにも定評があります。
3.農業用ドローン導入の総コスト分析
農業用ドローンは、本体を買えばすぐに使えるわけではありません。バッテリーや充電器、保険、操縦の講習など、本体以外にもまとまった費用がかかります。予算は「本体価格」ではなく「総額」で考えておくと、導入後に慌てずに済みます。
3-1.初期費用の内訳
本体価格:約120万円〜230万円(税込)
必須アクセサリー:予備バッテリー(T25・T50クラスで1本あたり約27.5万円、3〜4本が目安)、充電器(約20万円)、発電機(約31万円〜)など。合計で約130万円〜160万円(本体セットの同梱品により変わります)
トレーニング費用:操縦技術講習(約15万円〜30万円)
保険料:約5万円〜20万円/年(機体価格や使い方により変わります)
見落としやすいのがバッテリーです。アクセサリーだけで本体価格に近い金額になることも珍しくないため、見積もりを取るときは付属品込みの金額で比べるようにしましょう。
3-2.維持費・ランニングコスト
バッテリー交換:使用頻度に応じて交換(T25・T50クラスで約27.5万円/本)
定期メンテナンス:年間約10万円〜30万円
修理費用:故障・事故時の修理(平均約20万円/回)
ソフトウェアアップデート:無料〜有料(メーカーにより異なります)
3-3.運用コスト試算例
50haの水稲で、農薬散布をドローンで行った場合の5年間の総コストを試算すると、次のようになります。
- 初期投資(本体+付属品):約300万円
- 維持費(5年間):約150万円
- 運用コスト(人件費等):約200万円
- 総コスト:約650万円(1haあたり年間約2.6万円)
従来の動力噴霧器による散布と比べて、労働時間を約60〜80%減らせた事例もあります。特に10ha以上の規模になると、コスト面でもドローンの優位性が出てきます。
3-4.農業用ドローンに使える補助金(令和8年度)
農業用ドローンは本体だけで100万円を超えるため、「補助金は使えないの?」と気になる方も多いと思います。
実は、国には「農業用ドローン専用」の補助金はありません。ただ、農業機械の導入を支援する制度の対象として、ドローンの購入費の一部を補助してもらえる場合があります。
代表的なのが、国の「地域農業構造転換支援事業」です。地域の農業を担う農業者(市町村の地域計画に位置付けられた担い手)を対象に、購入費の3/10以内、個人で最大1,500万円、法人で最大3,000万円まで補助を受けられます。
もう少し身近なところでは、市町村が独自に補助を出しているケースもあります。茨城県では、稲敷市がドローンなどのスマート農業機器の導入に最大70万円、八千代町が認定農業者のドローン購入に最大10万円を補助しています(いずれも令和8年度)。
注意したいのは、補助金は「買ってから申請」ではなく「申請してから買う」のが基本だという点です。交付が決まる前に買ったものは、原則として対象になりません。募集は年1回程度のことが多く、今使っている機械と同じ性能のものへの買い替えは対象外になるなど、細かな条件もあります。
購入を考え始めたら、機種を決める前の段階で、お住まいの市町村の農政担当課に「ドローンの導入に使える補助金はありますか」と相談してみてください。使える制度や申請の時期がわかれば、無理のない導入スケジュールを立てられます。
4.農薬散布ドローンの保険と法的リスク対策
どれだけ慎重に飛ばしていても、墜落や薬剤の飛散といった事故の可能性はゼロにはなりません。保険は、万一のときに経営を守るための大事な備えです。
4-1.農業用ドローン保険の種類
機体保険(動産総合保険)
ドローン本体や付属機器の損害を補償する保険です。操縦ミスによる墜落、火災、水没、盗難などをカバーします。保険料は機体価格によって変わり、年間約5万円〜15万円が一般的です。
賠償責任保険
第三者へのケガや物損に対する補償です。農薬の飛散(ドリフト)による近隣作物への被害も補償の対象になるケースが多く、年間約5,000円〜12,000円程度で加入できます。
4-2.無保険飛行のリスク
農業用ドローンの事故で第三者に損害を与えると、高額な賠償を求められることがあります。特に農薬散布中の薬剤飛散は被害が広がりやすく、賠償額が数百万円に達することもあります。
また、無人航空機損害賠償責任保険(通称:ドローン保険)への加入が、一部の飛行許可申請で必須条件になるケースもあります。
4-3.適切な保険選びのポイント
- 使い方に合わせて選ぶ:散布作業が中心なら、ドリフト補償が充実した保険を選ぶ
- 補償範囲を確認する:機体の損害だけでなく、第三者への賠償や捜索費用も含まれているか
- 免責金額を決める:小さな事故は自己負担にすることで、保険料を抑えられる
5.農業用ドローン操縦に必要な資格と取得方法

農業用ドローンを飛ばすには、一般的な操縦技術に加えて、農薬散布ならではの知識と技術が必要です。安全に長く使っていくためにも、資格の取得から始めるのがおすすめです。
5-1.必要な資格・免許
無人航空機操縦者技能証明(国家資格)
2022年12月に施行された航空法改正で、国家資格制度(無人航空機操縦者技能証明)が始まりました。農業用ドローンの多くは最大離陸重量が25kgを超えるため、「25kg未満」の限定を解除する限定変更講習もあわせて受けておくと安心です。
DPA認定資格(民間資格)
一般社団法人 ドローン操縦士協会(DPA)が認定する民間資格です。民間資格も国家資格と同様に経験者の証明となるため、DJIなどが提供する専門資格をお得に受講できます。
なお、2025年12月5日をもって、民間資格を根拠に飛行許可申請を簡略化できる運用は終了しています。
農薬散布のための資格
農薬の適正使用や散布技術についての専門知識を身につけるための資格です。DJIなどが提供する「UTCコース」や「農業ドローン技能認定証」などがあります。
農薬散布は航空法上の「危険物輸送」「物件投下」にあたるため、原則として国土交通省の飛行承認が必要です。ただし2026年3月23日からは、機体認証を受けた機体を使い、一等または二等の国家資格(25kg以上の機体では重量の限定変更も必要)を持つ操縦者が、農地の上空4m以下で補助者の配置などの条件を守って行う農薬散布は、飛行の承認が不要になりました。機体認証を受けた農業用ドローンはまだ限られており、飛行計画の通報や飛行日誌の記載は引き続き必要です。
5-2.資格取得のコスト
取得費用の目安
- 国家資格(二等無人航空機操縦者技能証明):約15万円〜40万円
- DPA認定民間資格:約20万円〜30万円
- 農薬散布専門資格(UTCコース):約20万円〜25万円
5-3.ドローンマスターズスクールの資格コース
ドローンマスターズスクールでは、国家資格の取得コースから農業用ドローンの専門コースまでそろえています。なかでも千葉野田校は農薬散布ドローンの専門校で、限定変更講習を含めた実践的な技術を身につけられます。
DJI UTC(Unmanned Aerial System Training Center)の認定校でもあり、農業用ドローンの世界最大手であるDJI AGRASシリーズの正規トレーニングを受講できます。
6.農業用ドローン導入の成功事例
実際にドローンを導入した現場では、どのくらい作業が楽になったのでしょうか。2つの事例を紹介します。
6-1.水稲栽培での労働時間削減事例
山口県長門市の株式会社長門西は、集落営農法人の連合体としてドローン防除事業に取り組んでいます。令和3年度には延べ300haの農薬散布を行い、中山間地の水田でも効率よく防除できるようになりました。従来の動力噴霧器と比べて、労働時間を約60〜80%削減しています。
馬場ファームの事例では、中山間地域での液肥散布にかかる時間が、動力噴霧器の30〜60分/10aから、ドローンでは10分/10aまで短くなりました。体への負担も大きく減り、高齢の農業者にとって助けになっています。
6-2.導入時の重要ポイント
うまくいった事例に共通しているのは、次の5つです。
- 機種選び:栽培規模と作業内容に合った機種を選ぶ
- 訓練:操縦技術の習得に十分な時間をかける
- 段階的な導入:小さく始めて、少しずつ広げる
- メンテナンス体制:定期的な点検・整備の仕組みを作る
- 地域との連携:複数の農家での共同利用や、作業の受委託も考える
参考情報源:
- 農林水産省「令和4年度 農業分野におけるドローンの活用状況」 - https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/drone-26.pdf
- ヤンマー「産業用マルチローターT10/T25/T25P/T70P 価格」 - https://www.yanmar.com/jp/agri/products/helicopter/t10_t25_t25p_t70p/price.html
- 農林水産省「農業用ドローンカタログ」 - https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/drone-189.pdf
- DJI「DJI AgricultureがAgras T70PおよびT25Pを日本で発売」 - https://www.dji.com/jp/newsroom/news/dji-release-dji-agras-t70p
- 国土交通省「航空法施行規則第236条の82第1項第2号の規定により飛行の方法に係る承認が不要な飛行の取扱い」 - https://www.mlit.go.jp/common/001990796.pdf
まとめ
農業用ドローンは、本体価格だけでなく、バッテリーや保険まで含めた総額で比べて、自分の経営規模に合った機種を選ぶことが大切です。あわせて資格の取得と保険への加入を済ませ、使える補助金があれば上手に活用しながら、無理のない形で導入を進めてください。









